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がん患者の4つの苦痛と処方箋


 C.Saundersは1984年に著書の中で、がん患者には4つの苦痛(Total Pain)があると書きました。

 その4つの苦痛とは①身体的苦痛 ②精神的苦痛 ③社会的苦痛 ④スピリチュアルな苦痛の4つです。

そして人は「がん」に罹患すると、この順に苦痛が生じるのです。

それを図示すると、有名なTotal Painと呼ばれる下図になります。

C.SaundersのTotal Painの図
C.SaundersのTotal Painの図

 最初に生じる身体的苦痛精神的苦痛は、医療機関が対処してくれる苦痛です。いわゆる「緩和ケア」と呼ばれる措置で対処してくれます。

 次に生じるのが、社会的苦痛です。仕事(就労)、家庭の悩み、経済的問題など、社会全体で支える支援が必要な苦痛です。病院では、がん相談支援センターや患者相談室が対応してくれます。

 最後の苦痛が「スピリチュアルな苦痛」と呼ばれるものです。これは精神的苦痛と混同されやすいのですが、全く違うものです。

生き甲斐の喪失や死への不安と恐怖などから生じる苦痛です。要するに今まで「心の支えになっていたもの」を失うことから生じる苦痛です。今まで人生を頑張って来れたのは、それがあったからです。それがエネルギーになっていたのです。それを失うことで、生きる意欲を失うのです。

 では、それに対処してくれるのは誰なのでしょうか?

それはその人の人生観や価値観に依存することなので、その人自身しかありません。自力による回復しかありません。

しかしその回復を手助けすることは出来ます。その1つが自助グループ(SHG)と呼ばれる人達の集まりです。

 

 多くのがん経験者は、がんの罹患直後に「頭の中が真っ白になった」というほどのショックを受けて、生きる希望や意欲を失うという「スピチュアルな苦痛」を経験します。

つまり上図のTotal Painの始まりは「スピチュアルな苦痛」からなのです。

 身体的苦痛や精神的苦痛から始まった苦痛も、最後はスピリチュアルな苦痛に至って、終わるのです。だから「がんの苦痛」はスピリチュアルな苦痛に始まり、スピリチュアルな苦痛に至って終わるのです。

そして身体的苦痛が続く限りは、ラセン階段を上るように同じ回転を繰り返します。

がんの医学的治療が終わっても、その後遺症(障害や副作用)で苦しむ人はラセン階段をグルグルと回っているようなものです。

 

 スピリチュアルな苦痛が一番厄介なのは、医療者や社会や家族では解決できないという点です。本人自身の価値観や意思で自身で解決するしかありません。

この「スピチュアルな苦痛」を緩和する役割を担っているのが、がん患者会なのです。

 

 がん患者会が、そこから脱却する力を会員に与える場になっていることを私達は経験的に、また実証的研究(※1,※2)によって知っています。

 つまり医療機関では、どうにもならない部分を担っているのが、SHG型のがん患者会なのです。

 

引用文献

※1 三木祥男(2019),がん患者会の入会効果と意義に関する実証的研究ーピアサポート

   の内部構造との関係ー,ヒューマンケア研究,19(2),101-114

※2 三木祥男(2021),がん患者会の入会効果と意義に関する実証的研究(続報)ー意識の

      内部構造と入会効果の相関性の視点からー,ヒューマンケア研究,21(1),15-26